高温の物体を取り扱うことの多い工場などの現場では必須の耐熱手袋。たくさんの種類があって選びにくいものです。特に300℃以上の耐熱手袋については情報が錯綜していて、選定に難儀することも多いもの。そこで本記事では耐熱温度別に耐熱手袋の選び方を紹介します。
0. 主な耐熱手袋の種類と性能まとめ
主な耐熱手袋の種類と特徴を一覧にしました。家庭用ではなく工業用/産業用としての耐熱手袋の性能とお考え下さい。詳細は次項で説明します。
素材 | 耐熱最高/常用 | 耐摩耗性 | 耐薬品性 | 作業性 | 輻射遮断 | 代表製品 |
1. アルミ被覆 | (1650℃※)/95℃ | × | × | △ | ◎ | こちら |
2. シリコーン | 200℃/― | × | △ | ◎ | × | こちら |
3. アラミド繊維 | 400℃/370℃ | 〇 | × | 〇 | × | こちら |
4. PBO繊維 | 500℃/― | △ | ◎ | 〇 | × | こちら |
5-1. 無機繊維(シリカ繊維)① | 700℃/540℃ | △ | × | △ | △ | こちら |
5-2. 無機繊維(シリカ繊維)② | 1095℃/815℃ | △~〇 | × | △ | △ | こちら |
1. 耐熱100℃/輻射は得意:アルミ被覆は非接触で活躍
耐熱手袋としては、アルミニウムで被覆しているタイプのものがあります。見かけ上の「耐熱温度」は1650℃と驚異的ですが、これはヒーターや火炎などの高温物体との非接触環境における輻射熱遮断温度を示しています。
接触時の耐熱温度は95℃と非常に低いため、高温雰囲気に手を入れるが触らないという状況で活躍する耐熱手袋です。高温の物体に触れる場合には、温度域に合わせて他の耐熱手袋を選びましょう。
2. 耐熱200℃:シリコーンは薄くて作業性◎
耐熱温度が200℃くらいであれば、幅広い種類から選べます。中でもシリコーン製手袋は、熱湯を取り扱うことができるのが最大のメリットです。ただしシリコーンは酸・アルカリの薬液には耐えられません。高温の薬液を取り扱う場合には後述のPBO繊維製など、取り扱う薬液に応じて適切な材質のものを選びましょう。
また耐熱手袋と言えば厚手で作業性悪化が伴うことも多いもの。耐熱温度が200℃程度であれば、作業性の良い薄手の手袋を選ぶことも容易です。シリコーン製ならクリーン環境や食品取扱などにも対応しているものも数多く市販されています。
3. 耐熱300℃~400℃:アラミド繊維は難燃性と耐摩耗性を両立
耐熱温度が300℃~400℃くらいであれば、アラミド繊維製の耐熱手袋がお勧め。比較的薄手で作業性良好、かつ対切創手袋にも使われる素材なので耐摩耗性も良好です。東レ・デュポン社の商標であるケブラー®として広く知られていますね。
ただし500℃以上の熱風に曝されると燃えます。熱さこそ感じませんでしたが、筆者はそれで手袋が燃えてかなり怖い思いをした経験があります。難燃性なのですぐに冷やすと一瞬で鎮火しますが、400℃を超える可能性がある場合には非常に危険です。もう少し耐熱温度の高いPBO繊維、できれば無機繊維のものを使用しましょう。
4. 耐熱温度400℃~500℃:高機能有機繊維ならPBO、屋外保管は厳禁
有機溶媒やアルカリにも耐えられることで知られるPBO繊維(poly-p-PhenyleneBenzobisOxazole)。耐アルカリ・耐有機溶媒性を備え、強度、耐熱性も高く、有機繊維としては高い防護性能に優れることが特徴。アラミド繊維と比較して2倍の強度、100℃高い耐熱機能を持った高機能素材ですね(出典:ザイロン®技術資料)。高価なものでは、クリーンルームに対応しているものもあります。ダウ・東洋紡社の商標であるザイロン®として広く知られています。
一方で高温スチームや光照射による分解を受けやすく、耐久性にはやや課題があります。屋外に半年間放置した場合、65%もの強度DOWNが確認されています(出典:ザイロン®技術資料)。購入して現場で長期保管を想定することが多い耐熱手袋ですが、定期的に交換した方がよいでしょう。
5. 耐熱600℃~800℃:シリカ繊維一択
600℃以上の耐熱性を求めるなら無機素材が配合された繊維一択となります。有機素材では対応できず、安価かつ熱伝導性の低いシリカを配合した繊維でできた耐熱手袋を使いましょう。東栄社製のゼテックスシリーズなら、グレードに応じて常用で540℃~815℃程度、瞬間的には700℃~1095℃まで耐えられます。高温物体を扱う溶鉱炉などでも使用実績があると言われています。筆者の経験でも800℃くらいの熱風を受けても何も感じませんでしたし、1000℃近い赤熱した物体を数秒間掴んでも熱さを感じませんでした。
ただし常用温度を超えるものを使う際には、内側にアラミドなどの耐熱インナー手袋も併用することをお勧めします。素材自体は燃えずに耐えられますが、熱が伝わると熱くて危険です。インナー手袋をすることで熱伝導速度を遅くすることができ、熱く感じるまでの時間を延ばすことができます。ご自身が熱く感じたら、速やかに熱源から手を離すようにしてください。
6.まとめ:耐熱温度に応じた素材選定が重要
工業用で使用する耐熱手袋は耐熱温度に応じて適切なものを選びましょう。
輻射や火炎ならアルミ被覆手袋、200℃ならシリコーン、300~400℃ならアラミド繊維、400~500℃ならPBO繊維、600℃以上ならシリカ繊維がよいでしょう。ただし耐熱手袋はあくまで最後の砦としての保護具。やむを得ない状況に一時しのぎで使用するものです。
保護手袋を過信せず、可能な限り使用を避ける或いは接触時間を短縮できる作業方法を考えましょう。また使用前に穴が開いていない等しっかり点検することも忘れないでください。